アジア最大級のスタートアップ・イノベーションカンファレンス、SusHi Tech Tokyo 2026の初日が、4月27日(月)、東京ビッグサイトで幕を開けた。TechCrunchの事前レポートでは「カンファレンスというより6万人規模のディールルーム」と表現されている。出展スタートアップ750社、3日間で来場者6万人超を見込み、セッションは151本、49カ国の都市リーダーが参加し、公式マッチングアプリ経由で来場前から1万件のビジネスミーティングが組まれていた。Japan Timesも「過去最大規模」と紹介していた。
今年は公式アンバサダー、そして初出展者として参加している。会場から日々レポートを書いていくつもりだ。これはDay 1の記録である。
LaLoka Labsブース、西2エリア D-1108
LaLoka Labsは今年がSusHi Tech初出展で、ブースは西2エリア D-1108。主催者からの分類は「Retails and Commerce (B2C)」「IT and Security」「Generative AI」「SaaS/Platform」の4つのトラックにまたがっている。出展とアンバサダー就任については12月にKafkaiブログで告知済み、SusHi Tech期間中の街全体に広がるパートナーイベントについても別記事で書いた。映画祭、屋上ウォーク、クラシックコンサート、Day 2に開催する我々自身のミートアップなどだ。
ブースで紹介しているのはLaLoka Labsの全プロダクトラインだ。AIライターのKafkai、競合SEOとコンテンツ戦略のためのKafkai Market Intelligence、独自ドメインのメール転送サービスKaiMail。壁のポスターに掲げた"Your competitors have a strategy. Do you know yours?"(あなたの競合には戦略がある。あなた自身のものを知っているか?)というコピーは、今年一年かけて磨いてきたピッチで、通りがかった創業者やエージェンシーオーナーにきちんと刺さっていた。
来場するなら、ぜひ西2エリアのD-1108に立ち寄ってほしい。雑談でも、自分のドメインに対するライブの競合インテリジェンスデモでも、カンファレンスのメモ交換でも、なんでも歓迎する。

過去最悪レベルの「ウェルカム」
月曜朝のビッグサイトは戦場だった。激しい雨に加え、東京湾名物の強風。国際展示場駅から橋を渡り終える前に傘がひっくり返るような風だ。ほとんどの参加者は、会場に着いた時点で既に半分濡れ鼠になっていた。
混乱はドアの中まで続いていた。受付エリアには長蛇の列ができていた。バッジを事前印刷していない参加者が予想以上に多かったのだ。SusHi Techは私が参加してきた中でもデジタル運営が最も洗練されたカンファレンスの一つだが、それでも入場には印刷済みのQRバッジが必須だ。会場内コンビニにはこの状況用のプリンターも設置されているのだが、そちらの行列も受付の行列に劣らないくらい長かった。Day 2に来る人へのアドバイスとして、バッジは自宅で印刷してくるか、最初の30分は濡れたまま列に並ぶ覚悟をしてくることを勧める。
主催者の対応の早さは正直に評価したい。月曜の夕方には、SusHi Tech Tokyo 2026事務局から参加者全員に直接謝罪のメールが届いていた。会場での印刷需要が予想を超え、結果として行列が止まったことを率直に認める内容だった。Day 2に向けては具体的に2つの運用改善が約束された。バッジ印刷リンクの再送付(自宅で事前印刷できるように)、そしてより実用的な変更として、印刷ができない来場者は受付でスマートフォンのQRコード提示でも入場できるようにすること、だ。当日中に、しかも公の場で、ここまで明確に対応するというのは、日本のカンファレンス運営において本当に珍しい。私自身も千人規模のカンファレンスを運営する側に回った経験があるので、運営側の苦労と今回の対応の質はよく分かる。
中に入ってみると、すぐにイベントの規模感に圧倒される。22の国際パビリオン、4つのテーマゾーン(AI、ロボティクス、レジリエンス、エンタメ)、企業や自治体がスタートアップに課題提示する逆ピッチセッション、そして会場のいたるところに掲げられたTokyo Innovation Visionの「10×10×10」のフレーミング。今年は第4回目だが、明らかに成熟期に入っている。「期待の新しいカンファレンス」から、東京がグローバルなスタートアップカレンダーに恒久的に組み込もうとしているイベントへと、はっきり移行した感がある。
開会基調講演 ―小池都知事、台湾、エストニア、そしてG-NETS発足―
午前のメインイベントは小池百合子都知事による開会基調講演だった。SusHi Tech Tokyo 2026のバナーがメインホールにオレンジ色に光り、早めに着いたつもりでもすでに人と人の間からかざされたスマートフォンの森ができていて、今年の国際的な来場者の重みが一気に伝わってきた。
小池都知事のスピーチは、G-NETS(Global City Network for Sustainability)の正式発足を兼ねていた。これは東京都が主導するイニシアチブで、現時点で五大陸50を超える都市のリーダーが参加するまでに拡大している。今年のテーマは"A New Urban Future Built on Climate and Disaster Resilience"(気候と災害レジリエンスを基盤とした新しい都市の未来)。ありがちな都市外交の総花的な題目に終わらず、異例なほど具体性のあるフレーミングだった。
特別ゲストセッションでは2人の注目人物が紹介された。一人はLiisa-Ly Pakosta氏、エストニアの法務・デジタル担当大臣。短いながらも内容のあるスピーチだった。世界に先駆けたデジタル都市タルトゥと、2022年に日本とエストニアが結んだ協力覚書(Memorandum of Cooperation)に触れながら、本論ははっきりと刺さるものだった。AI時代において、価値観を共有する民主主義国家同士は互いを見つけ、協力していくしかない。信頼できるパートナー間の協調は、もはや「あれば良いね」ではなく戦略的な必須要件である、と。エストニアといえば、国家のデジタルアイデンティティ基盤を20年以上にわたり世界の参照点にしてきた国だ。彼女が語ると、抽象論ではなくなる。
もう一人は台湾の環境部長、彭啓明(Peng Chi-ming)氏。G-NETSの文脈で考えると、彼の登壇は深く意味があった。彭氏はもともと気象学者(大気科学のPhD)で、台湾初の民間気象会社を創業してから政界に入った経歴を持ち、これまで国連気候変動会議に市民オブザーバーとして11回出席している。彼の指揮のもと、台湾は日本のシステムを明確にモデルとした炭素価格制度の導入を進めており、cap-and-trade市場の開設も予定されている。デジタルガバナンス担当の大臣と気候ガバナンス担当の大臣が小池都知事の両脇に立つ構図は、東京がG-NETSをどういう枠組みにしたいかについての、静かだが極めて明確な意思表示だった。
そのあとに続いたのが、ステージング上は本当に印象的なシーンだった。世界中の都市リーダーが次々と登壇し、小池都知事と並んで紹介されていく。私の席から確認できた範囲だと、エレバン市長、シンガポールのDivesh Vasu Dash氏(国務大臣兼サウスイースト地区市長)、ポルト市長、サンサルバドル市長、トリノ市長、Moreton Bay市長、ヘルシンキ市長、甲府市長、Gilly市政庁長官、グラスゴー市議会リーダー、ジャカルタ州知事、マニラ首都圏開発庁長官など。これらの名前のほとんどは多くの読者には馴染みがないかもしれない。だが、十数人の都市リーダーが大臣2人とともに同じステージに並ぶ累積効果は強烈だ。「東京は都市間外交のハブだ」という位置付けが理想ではなく現実になりつつあることを、これほどはっきり示すシグナルはなかった。
高市総理のスピーチ ―会場に収まりきれない人混み―
小池都知事の基調講演で混雑したと思っていたら、高市早苗総理には全く準備できていなかった。日本の第104代総理大臣の話を聞こうと集まった群衆は、率直に言って異常だった。空中にかざされる無数のスマートフォン、後ろの椅子に立ち上がる人々、ホールに入りきれず横のスクリーンで聴いている参加者。一時は本当に「通路はもう通路として機能してるんだろうか」と心配になったほどだ。
高市総理のスピーチは「責任ある積極財政」という枠組みで構成されていた。彼女の言い方では、強い日本経済を実現するには卓越した科学技術が基盤になる、ということだ。いくつか印象的なテーマがあった。
- スタートアップは現在日本のGDPの約4%を占めており、過去2年でそのシェアは32%伸びた。「スタートアップエコシステム」が経産省のスライドの中だけにあった時代と比べると、相当に意味のある飛躍だ。
- 日本成長戦略会議の設立。ディープテックとスタートアップに横断的に焦点を当てる体制を組む。
- 政府はSBIR型の調達モデルへと舵を切る。各省庁が補助金を切る側に留まらず、スタートアップの開発した技術を自ら導入し、アンカー顧客になる仕組みだ。
- 地方の大学にスタートアップスピンアウトによる研究商業化をより積極的に推進させ、自治体調達によって需要側からも下支えする。
これは「スタートアップを応援しています」的な漠然としたスピーチではなかった。具体的で、メカニズムにフォーカスしていて、会場にいる創業者たちに直接向けて投げられた言葉だった。高市政権全体の政治姿勢に対する評価がどうあれ、過去政権からのスタートアップ政策の継続性が維持されている、いや、むしろ加速していると言って差し支えないだろう。
フロアで交わした会話
基調講演はヘッドラインだが、SusHi Techの本当の価値はフロアでの会話にある。Day 1で交わした、特に内容のあった会話を4つ紹介する。
芝由佳さん ―コークス・コンテンツパートナーズ
芝さんは私たちのブースに立ち寄ってくれた。今年のSusHi Techには初参加で、出展ではなく会場の偵察として来ていた。彼女自身の会社は文字通り4月1日設立されたばかりで、ビジネス運営という意味では最早期の段階にある。一方で、コンテンツの実務経験は非常に深い。
経歴が面白い。ITmediaでB2Bリード獲得タイアップ記事(エンタープライズソフトウェアベンダーにリードマグネット経由で売られる、あの種の記事)を担当し、編集者・ディレクターを経た後、企画側に飽きてライターに戻った。今は自分のコンテンツ実務を立ち上げており、特筆すべきはセルフホストのLLMを使ってAIアシストパイプラインを自前で構築している点だ。インタビュー音源から本物の中身を引き出すことに特化したツールである。
「AIコンテンツ」のどこが間違っているかについての彼女の診断は鋭かった。多くのライターはインタビュー文字起こしをそのままChatGPTに放り込む。読みやすい何かが出てくるが、機械的な処理の中でインタビュイーが本当に伝えたかったポイントが消える。ブランドボイスや編集意図も洗い流される。彼女のツールはそれらを保持するために設計されている。
私たちはこれがKafkaiとどう補完し合えるかについて、かなり長く話し込んだ。私のプラットフォームが扱うのは上流レイヤー、SEOデータ、競合分析、キーワードポジショニング、実際の市場ギャップに基づくコンテンツブリーフだ。彼女のは下流のクラフトレイヤーで、本物のドメインエキスパートの取材内容を、LLMっぽい文章ではなくその会社らしい声に乗せたコンテンツへと仕上げていく。コラボレーションの自然な形は明らかだ。後日改めて話を続ける予定だ。
Adham Fayumi氏 ―Rymba CEO(rymba.my)
マレーシアパビリオンで腰を据えて話したのが、RymbaのCEO、Adham Fayumi氏だ。彼らのタグライン"Transforming Conservation With Forest Intelligence"(フォレストインテリジェンスで保全を変革する)がよく内容を表している。ドローン、衛星画像、AIを組み合わせ、森林、都市の緑地、保全エリアを、政府・開発業者・ESG報告に取り組む企業向けの明確で実用的なデータに変える事業だ。Adham氏は最近、MIA Digital Month 2025のサステナビリティ報告ツールに関するパネルにDeloitteやPETRONASと並んで登壇している。マレーシアのESG報告エコシステムの中で築いてきた信頼の度合いが伝わってくる。
ピッチデッキでは、技術スタックを3層に整理していた。
- ドローン ―高解像度・マルチスペクトル。林冠のマッピング、ストレス検出、奥地や密度の高い地形での再生モニタリング。
- 衛星 ―継続的かつ大規模な生態系モニタリング。森林損失と回復の長期トラッキング。
- AI ―膨大な量のドローン・衛星データを解析し、人間には見えないバイオマス、炭素貯蓄、生物多様性のパターンを表面化させる。
彼らはMDECとSIDEC(Selangor Information Technology and Digital Economy Corporation)経由でSusHi Techパビリオンに選ばれている。Rymbaのgo-to-marketで特に興味深いのは、サステナビリティ報告を必要とする日本企業に強いコネクションを持つ日本人投資家がついている点だ。Adham氏が挙げた具体例は、Hondaの東南アジア倉庫周辺の環境影響トラッキング。日本のESG報告は徐々に「任意」ではなくなりつつあり、信頼に足る、説得力のある環境データへの需要は急速に伸びている。
Joe Poh氏 ―MatrixInvent CRO
数ブース先で、MatrixInventのJoe Poh氏に出くわした。彼らのプロダクトはKafkaiとはデータの軸において真逆のところにある。私はインターネットからスクレイピングするマーケティングデータを扱うが、彼らは生の機械センサーデータを扱う。産業設備から毎秒10万から100万のタグを処理する、というレベルだ。
顧客リストは産業テクノロジーの錚々たる名前が並ぶ。Petronas、Air Selangor、Indianapolis 500レースシリーズ、そして―ここで思わず姿勢を正したのだが―米海軍の原子力潜水艦と航空母艦。ピッチによると、このスケールでこれをできる会社は世界に3、4社しかなく、残りはアメリカ、イギリス、オーストラリアにいるとのことだった。
技術的に印象に残った主張がある。彼らのデータベースは20年分の運用データをおおよそ1GBに収められる。これが本当だとすると、ロングテールな産業テレメトリーの経済性を根本から変えるレベルの圧縮・インデックス技術だ。さらにその上に自然言語クエリレイヤーが乗っており、エンジニアが「先週のエンジンルーム3はどうだった」と聞けば、SQLを書かずに答えが返ってくる。攻撃を受けている海軍艦艇でエンジンがあと一ヶ月持つかどうかを判断するような場面では、このクエリ速度はあったらいいねの話ではなくなる。
私たちのスタックとは別物だが、お互いのプロファイルを交換しておく価値はある、ということで合意した。産業AIは「みんな話してるが、実際にバックボーンとなるデータインフラを持っているのはごく僅か」という典型的な領域である。MatrixInventは静かにそれをやっている。
Syukur Wahab氏 ―Pixelence ディレクター(pixelenceai.com)
Day 1の最後の実のある会話は、マレーシアパビリオンのもう一社、PixelenceのSyukur Wahab氏との対話だった。PixelenceはSoftware as Medical Device(SaMD)のプレーヤーで、その日聞いた中でも特に興味深い技術ピッチを持っていた。AIによる予測モデルを使い、脳MRI撮影でのガドリニウム造影剤の使用を不要にするというものだ。
文脈を補足しておく。脳腫瘍のイメージングでは、標準ワークフローとして腫瘍位置を高精度で可視化するためにガドリニウム系造影剤を注入する。フルプロセスは7段階に分かれ、注入が繰り返されることもある。ガドリニウムは害があることが文献的によく示されている。体に負担をかけるし、排出後は分解されない金属化合物として水路に蓄積する。脳MRIにおけるAIベースのガドリニウム造影剤削減・廃止に関する学術研究はここ数年で蓄積されてきているが、それを規制対応のSaMD製品としてアジアで実装している企業はごく少数だ。Pixelenceはそのうちの一つである。
Pixelenceのモデルは新しく撮った非造影MRIスキャン上で動き、多くのモニタリングシナリオでは造影剤が不要になる程度の精度で腫瘍位置を予測する。公式の公表値は予測精度95%、来院あたり約100分の患者・病院時間の節約。バリューが高いユースケースは、長期間モニタリングされる患者だ。腫瘍進行を追うために17回スキャンを受ける人が、もうガドリニウムを17回注入されずに済む、ということになる。学習には数千の脳データセットを使っており、現在ベンチャー資金を調達中で、競争に対する姿勢は非常に現実的だった。Bayerのような造影剤大手は約100億ドル分の負債と事業をガドリニウム製品にぶら下げているので、戦略は造影剤を一夜で置き換えるのではなく削減することにある。
会話は脱線もした。在日マレーシア人コミュニティのサイズ(登録ベースで5、6千人ほど、多くは4年で入れ替わる学生)、私自身が積極的に参加しているMAJECAとJAMECA(マレーシア・日本商工会議所)、そして気候変動の話。今や東京の40度の夏は普通の出来事だが、私が初来日した30年前はそうではなかった。
そのほかの短い出会い
Adham氏のブースにいた際、Rymbaの投資家の一社であるLive A Nest CapitalからZafirah氏と宮下さんにも会った。Live A Nestは私にとって既知の名前で、以前のMAJECA・JAMECAイベントで同社のNur Ahmad Zaim Hussin氏に会っていた。SusHi Techは、マレーシアと日本の間の結合組織が思いがけない場所で何度も顔を出すようなイベントだ。それ自体が

締めくくりに
Day 1にはすべてが揃っていた。最悪の天候、列の管理ミス、忘れられない基調講演2本、ステージに並んだ十数名の都市リーダー、そして自分自身の仕事を実際に前に進めた4つの会話。パビリオンの地理的な広がりも目を引く。エストニアとシンガポールが最高水準の政治レベルで姿を見せ、マレーシアはディープテックの一団を引き連れてきて、東京はそれらの間の橋渡し役としての立ち位置を、これまでにないほど明確にしている。
東京は国際的に長く「面白いけど入りにくい」と評されてきた都市だ。今週ここに流れ込んでいる創業者、投資家、政策立案者の量は、その評価が変わりつつあることを示す、これまでで最も具体的なシグナルではないかと思う。Day 2がどう展開するかを見ていきたい。
お断り:以上の内容は私自身の記憶、メモ、そして多少のリサーチに基づいている。一部(あるいは全部!)の名前や記述に誤りが含まれている可能性はあることにご了承くださいー
Day 2へ続く。