クアラルンプールで出会った、深瀬マリー麻美さん - 日本と東南アジアをつなぐビジネスと文化の交差点
クアラルンプール中心部に位置する Mitsui Shopping Park LaLaport。
日本の企業や飲食店も多く出店しているこの商業施設の一角にあるカフェで、私は深瀬マリー麻美さんと待ち合わせをした。
はじめて深瀬さんとお会いしたのが、2024年のPJスタートアップフェスティバルだった。
深瀬さんは、元ベンチャーキャピタリストとして日本でスタートアップの資金調達やIPO支援を行った人物だ。サイバーエージェントでフィンテック事業を立ち上げ、後に210億円で事業売却を果たし、同社MVPも受賞した経験を持つ。現在はマレーシアを拠点に、自らの会社 Summys Ventures SDN. BHD. を通じて、日本企業のASEAN進出を支援している。
この日は、オープンしたばかりのある日本テーマのカフェでおにぎりをいただきながら、彼女のこれまでのキャリアからマレーシアでの事業、そして文化を通じたブリッジングについて幅広く話を聞くことができた。
マレーシアでの食と文化の発見
最初のテーマは「食」だった。カフェのテーブルに運ばれてきたのは、マレーシア風にアレンジされたおにぎりセットだった。
話をきくと、深瀬さんは、料理家としても活動しており、日本とマレーシアの食文化の違いや、それらを掛け合わせたときの面白さについて、熱心に語ってくれた。マレーシアではスパイスを少し加えたり、食感に遊びを入れたりすることが多く、食の体験に対する開放的な姿勢が印象的だという。こうした現地の感覚に触れながら、日本の食材やアイデンティティをどう現地に届けていくかを模索しているとのことだった。
日本企業に足りない「海外視点」のビジネス設計
話の話題は、食からビジネスへとシームレスに変わった。
深瀬さんが現在関わっている事業のひとつに、マレーシア発のイベントプラットフォーム「Eventsize」 の日本展開がある。
マレーシアやシンガポールではすでに展開されているサービスで、日本でいう Peatix のような役割を持つが、より国際色豊かな設計が特徴的だ。
私も日本で事業を展開しており、イベントにも参加させていただているが、日本の展示会やビジネスカンファレンスは内容が充実している一方で、英語表記が少なかったり、海外向けのサポートが十分でなかったりするため、参加のハードルが高くなりがちだと思っている。
マレーシアでは当たり前になっている「多国籍前提の設計」が、日本ではまだ浸透していない、というのが彼女の実感だ。
「AI起業家として価値を翻訳する」という仕事
深瀬さんは、マレーシアの教育機関と連携し、研究開発から事業に展開できるまで支援をしていきたいという。注目している分野としては、「AI」というのが上がっているが、アメリカのような巨大資本と真っ向勝負のような事業ではなく、例えばそのAIを使いマレーシアに盛んでいる製造業のためのサービス、または肉体労働のためのツールなど、ニッチの分野にフォーカスしていきたいという。日本と違って、事前にコンセンサスや信頼関係を築く接待を行うなどの段取りの文化あまりない、やると決まったらすぐにやろうというマレーシアのビジネス文化だからこそ未来があるという。
深瀬さんは、日本と東南アジアの両方のマーケットをよく知る立場から、「価値をどう翻訳するか」がもっとも重要だと話す。
たとえば、日本企業の技術や品質は世界でも高く評価されているが、それが「伝わる形」になっていないことで機会損失が生まれているケースは多い。
「いいものを作った」ではなく、「誰がどう使って嬉しいのか」までを含めて届けていく。その翻訳者の役割を果たすために、彼女は事業プロデュースや市場開拓の支援を行っている。
キャリアの転機と今の活動
過去に事業売却やIPO支援を経験した深瀬さんだが、そのすべては「人と価値を豊かにつなぐため」という目的につながっているという。 ビジネスだけでなく、食や文化にも関わる現在の活動は、その延長線上にある。
かつては自分が前に出て価値をつくる役割が多かったが、今は「誰かの未来を支えるために前に出る人を応援する」立場に変化してきたのだという。
その視点は、次世代のプロジェクト支援の枠を超えた、人間的な成長や共創の姿勢すら感じさせるものだった。
日本とマレーシアをつなぐ現在進行形の取り組み
最後に、マレーシアでの具体的な取り組みについて聞いた。
Summys Venturesとしては、日系企業と東南アジア企業の共同プロジェクト支援、工場向け自動検品システムの導入事業、さらには文化を通じた長期的な関係性構築プロジェクトなど、幅広い活動が進行している。
深瀬さんは、事業そのものに固執するというよりは、「未来を見据えた関係性の土台を築く」ことを意識していると語ってくれた。
彼女にとって、ステージや手段は重要ではなく、それを通じて「価値の橋をかける」ことが一貫したテーマとなっているようだ。
終わりに
おにぎりとおみそ汁をいただき終わったごろ、会話は、ビジネス、文化、価値、未来――複数のテーマが自然に混ざり合う時間だった。
日本とマレーシアの交差点で活動する深瀬マリー麻美さん。 彼女の次の一歩は、誰かが見えないところでつながる未来を支えるためにすでに動き始めている。